少し前になりますが『バカ塗りの娘』を観ました。
バカみたいに何度も塗っては研いでを繰り返す津軽塗、通称バカ塗り。
それを生業とする父娘の物語だから『バカ塗りの娘』
タイトルにインパクトがあってすごく良いと思った。
この映画を観たすぐあと原作を読み始めました。
ディグニティ???
尊厳とかプライドという意味だそうです。
映画と小説は少し違っていて映画にはあまりコミカルな部分を感じなかった。
小説の方は愉快な部分がちょいちょいある。
わたしが一番好きなくだりは美也子と吉田のばっちゃん(映画では木野花さん)がスーパーの前でばったり会ったときの会話。
『何買ったの?』という美也子の問いにばっちゃんは『肉ど魚こ、そいがら豆腐ど豆乳、納豆・・』と答える。大豆は女性ホルモンにいいとNHKが喋ってたと希望に満ちた顔で答えてくれる。そしてポイントカードをかなり大事にしているばっちゃんとのやりとりが続く。
このシーンは映画では省かれているけど入れて欲しかったな。
映画では父娘が作業中は横に並ぶ。
父の塗る音や手捌きを横目に見ながら聞きながら自分の作業(主に下ごしらえ)をする美也子。
修行時代のわたしもそうだった。師匠の横に一日座って、その作業する音で仕事を覚えていったことを思い出す。
今ならYouTubeで手順を見れば簡単に覚えられるのかもしれないけど、時間をかけて少しずつ覚えていった。
津軽塗は研げば研ぐほど過去が現れる。
何をしてたかが如実に突きつけられる。
嘘はない。
出来上がった物には私のすべてを知られている。
手仕事ずのはほとんどみな似だよんたもんだべ。
なんでもそうだ。焦っちゃなんね。待づのもんめぇ内だ。
ある日、いきなりんめぐなってで仰天するんだ。(吉田のばっちゃん)
直せば何十年も使えるって言われたって直してまで使いたいと思う人も少ない。
みんな忙しいんだ、急いでるんだ。
のんびり補修が終わるのを待ってなんかいられない。
飽きてもくるだろう。
もったいないと思う。
漆器は飽きてからが面白いのだ。
徐々に変化していく趣きに気づいたらきっと手放せなくなるのに。
走るんじゃなくて、歩いてゆくようにゆっくり生きていけばそのことに気づけるのに。
うんうんと大きくうなづくようなフレーズが沢山詰まっている小説でした。
手仕事というのはほとんどみんな似たようなもの。
特に時間のかかる伝統工芸の世界も垣間見れた。
そして先細になってゆく津軽塗のことも。
ななこ塗りなど『研ぎ出し変わり塗』という技法があることも知った。
映画も小説もどちらもおすすめ!
美也子を演じた堀田真由さんも良かった。(大奥での家光も良かったですよねー)
残念ながら関東エリアでは上映終了。
アアルトもすごく良かったです。
良い映画に限って上映期間が短いんだよな。