こびとく日誌

クツをつくりながら考えたこと。晴耕雨読な日々のこと。

喋々喃々

土曜日の上京がらみでもうひとつ。ちょっとびっくりしたこと。
この上京の話が浮上する少し前から読み始めていた本、小川糸さんの『喋々喃々』
前作の『食堂かたつむり』がわたしにとっては後半いまひとつで残念だなあと思っていたので期待を込めてこの作品を手にしていた。この小説の舞台が東京下町、"谷根千"と呼ばれるエリアだったのである。
おー、なんだか予知夢っぽい。
谷中でアンティークきもののお店を営む栞さんの恋物語。ただし、お相手の春一郎さんは奥さんと子供のいる人。
もうこの時点でパタンと本を閉じたくなってしまうのだけど、二人で食事をするシーンなどがとてもおいしそうだし、実在するお店や地名がバンバン出てくるのでちょっとした「下町案内」のようなガイドブック的な読み方もできる。出掛ける前に着物や帯を選ぶのもなかなか良い。

びっくりしたのはストーリーの中ほどで『私は春一郎さんと会うため鴬谷へと急いでいた。鴬谷に一軒、春一郎さんのお気に入りの居酒屋がある・・』と出てきたこと。
『その店は、女性だけでは入れないので、春一郎さんと言問通りの横断歩道を渡ったところで待ち合わせた・・・』

あれっ、これはもしかしたら・・・・。

さらにこう続く。『春一郎さんが連れて行ってくれた店は、賑やかな大通りから一本奥まった道沿いにある日本家屋の一階だった。白い暖簾に「鍵屋」と書かれ、裸電球が木の看板をぼんやりと照らしている。』

やっぱりそうだった。
土曜に連れて行ってもらったお店がこの「鍵屋」さんなのだった。
そこで栞さんは小上がりのテーブル席に案内されるのだが多分、そこと同じ席にわたしも座っていた。
そこから見えるお店の描写もいい。『店全体が飴色に見える・・・中略・・・カウンターでは次々と焼き鳥を焼く炎が上がり、香ばしい匂いが漂ってくる。』
つき出しは煮大豆で、春一郎さんのお薦め、煮奴、畳鰯、うなぎのくりから焼きが運ばれてくる。
そうそう、うなぎのくりから焼き!わたしもいただきました。

この小説が急に身近なものになった。
そういえばあの夜、お店には女性客はわたしたち以外いなかったような。
Tさん、良いお店を選んで下さってありがとう。



喋々喃々(ちょうちょうなんなん)とは男女がうちとけて小声で楽しげに語り合う様子をいうそうです。