こびとく日誌

クツをつくりながら考えたこと。晴耕雨読な日々のこと。

一路

少し前の話ですがNHKで数年前の時代劇ドラマの再放送をしていまして主役の俳優さんがなかなかいいなぁと思ったので続けて観ようと思ったのに結局2話くらいしか観られなかった『一路』
なので小説の方を読んでみました。

一路(上)  一路(下)
無茶苦茶おもしろい。夢中になりました。
江戸末期、中山道を参勤交代。武士道というのでしょうか。武士の面目というものにしびれました。
武士の面目とは己自身に恥じない行いのこと。座右の銘にします。
江戸時代は親の仕事をそのまま引き継ぐのが当たり前。一路は突然父親を亡くし、右も左もわからないまま参勤交代の御供頭を務めることになります。江戸まで参勤交代の一行に遅延は許されず・・・予定通りいけなければお家は取り潰しになるかもな状況な中、数々の苦難を乗り越えながら江戸まで向かうロードムービー
道中にはいろいろなエピソードがあるけれどわたしが一番気に入ったシーンはこちらです↓
参勤交代の道中で御供頭の凛々しい一路に一目惚れしてしまった加賀百万石の姫君、乙姫さま。身分違いの初恋。一路には許嫁もいます。一路にとっては迷惑なだけ。それでも後を追いかけてきた乙姫さまと二人きりで一路は会うことにします。そのときの一路のセリフが素敵。

彦星と織姫ならばせめて一年に一度の逢瀬も叶いましょうが、わたくしと乙姫様は金輪際にございまする。しかし、それはそれで風流な話です。人間の出会いは一期一会でござるゆえー中略ー
いわば姫様は天上の星でわたくしは地の草にござりまする。その星と草とがたとえひとときでもこうして肩を並べ、彦星と織姫にわが身をなぞらえることでこれにまさる果報も風流もござるまい。ー中略ー
しばし、この胸の中で夢をごらんあそばされよ。


くー一路は19歳です。色男やのう
優しい言葉をかけつつもきっぱり"金輪際"と言い切るところがニクいです。
ドラマでは一路に冷たくされた乙姫がその腹いせに嘘をついて一路を陥れようとするみたいで(この回見逃しました)それでは全く違うストーリーなのでむしろドラマを観なくてよかった。

あと途中で安中の遠足が出てくるのもかなりツボでした。
お殿様が病に倒れてしまい、予定の行程より遅れてしまうという報せを早く江戸に届けなくてはいけなくなったときに安中の選りすぐりの三名の侍が馬より速く江戸に向かうのです。三十二里を三刻半で走るそう。
その侍たちは"無駄な肉がひとつもなく鶴のごとく痩せている。顔は真っ黒に日焼け、ひとかけらの脂もない"と描写されていました。いわゆるウルトラランナーですね。
疾風のごとく江戸まで駆け抜けた三人の侍神田佐久間町の銭湯のしまい湯に現れます。
江戸まで着いたばかりだというのにトレーニングがてら「東海道を横浜港まで遠足いたし今帰りついたところじゃ。どうしても看板と申すならこれより箱根の山まで走って箱根の湯に・・」と言って町人たちを驚かしますww 
病(風邪)に倒れたお殿様は深谷のねぎで復活するのもおもしろかった。読めばきっと中山道を旅したくなる。
で、こちらも一気読み→浅田次郎と歩く中山道 - 『一路』の舞台をたずねて

この中のエッセイ「一路 余譚」は必読。ますます「一路」が好きになる。お殿様のことも。
夜長のつれづれに独り酒を酌みながら味わいました。

奈良井宿は昨年5月に訪れました→
他の宿場町も行ってみたいな。

最後に書き留めたいと思った一節を。
正義とは星。いかに夜空の闇が広うても正義が孤独であろうはずがない。
義のあるところ必ず星ぼしは群れ集うて輝く。