こびとく日誌

クツをつくりながら考えたこと。晴耕雨読な日々のこと。

つつんでひらいて

少し前に『私のちいさなお葬式』を観に行ったときにチラシを見つけて知りました。

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装幀家・菊池信義氏のドキュメンタリー映画『つつんで、ひらいて』

これは絶対に見逃せないわ!(しかも映画のパンフレットは菊池氏の装幀)

まずは予告動画もぜひ観てくださいね。

 

これまでに手がけた装幀は1万5千冊以上。

あの凛とした存在感のある、タイポグラフィだけで構成された硬派な装幀は憧れでした。

ただし、菊池氏による装幀本のジャンルはわたしの好む読書のジャンルと違っていたため、書店でみつけても手に取るだけで『サラダ記念日』以外はほぼ読んだことがないのですが。

そう、サラダ記念日が話題になっていた頃、わたしは大学生で菊池氏はブックデザイン賞などをとりまくっていたと記憶している。(1987年)

あれから時は流れ、このドキュメンタリー映画を観る機会に恵まれた。

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わたしの他にはひとりしか観客がいなかった・・・

 

 

いきなり紙をくしゃくしゃにするシーンから始まる。目が釘付け。

写植の文字を切り貼りするシーン。

ピンセット、カッター、金尺(この字でいいのかな?かなじゃく)、三角定規・・

方眼紙の上に。

トレスコ。コピー機の前を行ったりきたり。

懐かしいデザインの道具と昔ながらの作業風景。

正直驚いた。てっきりパソコンを駆使してやられているのだろうと思っていたから。

ベテランのアシスタントがPC上で微調整する。

もうこの30年前と同じ作業風景を見るだけでもこの映画を観にきてよかった〜と思った。

20代の頃わたしがアルバイトしていた広告デザイン事務所のことをしみじみ思い出す。

スプレーのりをコピー紙の裏に吹きかけ、切り貼りし、三角定規を駆使してトンボを切り、出来上がった版下をバイク便が取りに来る。いや、ときにはおつかいでわたしが届けに行っていた。失くしたらおしまいだなと緊張しながら。

 

行きつけのお蕎麦屋さんのシーンでほろ酔いの菊池氏が熱弁をふるう。

江戸弁の「こさえる」が好きだという。

デザインは設計ではなく「こさえること」

他者があってのデザインだと。

この言葉にハッとさせられた。

わたしの仕事もそうなのだ。履く人のためにこさえること。(江戸っ子ではないので「こしらえること」と言おう)

決して忘れてはいけないことのように思う。

 

そして小動岬あたりを走る江ノ電が映し出され、菊池氏が鎌倉にお住まいだということを知る。

裏駅前のたらば書房でご自身の装幀本を眺めるシーンもあり、きゃあ❤︎となった。

どこかですれ違うこともあるかもしれないじゃない?!

 

とただのミーハーになってしまったけど、とても良い映画なのでおすすめです。

本のカバーをかけるときにカバー紙を折るために人差し指に丸い筒状のもの(竹輪という道具)をはめるのですがそれが「ちくわ」じゃなくて「たけわ」だったのがツボでしたw

 

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大学時代に制作した本。まさしくコピーの切り貼りで印刷はシルクスクリーンでつくった。

懐かしくて引っ張り出してみた。1986年の夏。がんばったな。

本の仕事がしたいなぁと漠然と思っていたが挫折して靴屋になりました。