こびとく日誌

クツをつくりながら考えたこと。晴耕雨読な日々のこと。

白い花と鳥たちの祈り

『白い花と鳥たちの祈り』読了。

中1のあさぎは母の再婚と私立中学への入学を機に新しい町に越してきた。
新しい家族にも新しい学校にも馴染めない彼女の心の拠り所は、郵便局員の中村さん。
中村さんのにこっという笑顔を見るために郵便局に通うあさぎ。
一方、中村さんはあさぎのことをこっそり「幼ごころの君」と呼んでいる。彼女のことに気付いている。
あさぎと中村、それぞれ一人称で交互に物語は語られてゆく。

中村さんは発達障害(この呼び方いやだけど)に悩んでおり、郵便局でも他の局員のフォローがないとヘマばかり。そんな彼に優しく接してくれる同僚、南さんに「中村くんって、子供の頃、どんなだったの?」と尋ねられて話すエピソードがよかった。
それはユウガオの話。
ヨルガオのユウガオじゃなくてカンピョウの花のこと。源氏物語に出てくる夕顔の花のこと。
小学3年の中村少年は夏のある日、たまたまかんぴょうの花が開きかけているのを見てしまう。
白っぽい緑色のきっちりと巻いたつぼみを。何かに夢中になると他のことが全く目に入らなくなる子供だった中村少年はその場からてこでも動かず、咲き始めから開き切るまで見つめ続けた。無理矢理立たせようとするとパニックを起こす彼の横でずっとつきあってくれたのは担任の先生。
そのとき先生に言われたことば。
「中村くんはすごいね。本当は誰よりも集中力があるんだね」

ここで出てくる金子みすずさんの詩、「夕顔」

蝉もなかない
くれがたに、
ひとつ、ひとつ、
ただひとつ、

キリリ、キリリと
ねぢをとく

みどりのつぼみ
ただひとつ。

おお神さまはいま
このなかに。
なぜだか何度も泣いてしまいました。