こびとく日誌

クツをつくりながら考えたこと。晴耕雨読な日々のこと。

雪と珊瑚と

梨木香歩さんの新作『雪と珊瑚と』を読む。
珊瑚は21歳のシングルマザー。その娘、雪はまだおすわりができるようになったばかり。
働かなくてはいけないから、雪を預かってくれるところを探していた珊瑚の目の前に現れた貼り紙には『赤ちゃん、お預かりします』の文字が。
"個人的"に預かってくれるというくららさんに雪を預け、パン屋「たぬきばやし」で働き始める珊瑚。しかし、ほどなくたぬきばやしは閉店してしまう。途方にくれる珊瑚に、あるアイデアが浮かぶ。
それは自分で店をつくること。
お惣菜&カフェ。
資金を借りることや物件探し、野菜を提供してくれる農家さんを訪ねたり、メニューを決めたり、ワクワクするような展開になる。

うーん、これを読みながら、「ブームなのかなぁ」と思ってしまった。
『食堂かたつむり』とか『しあわせのパン』とか最近、レストランやカフェをオープンさせるお話が多い気がする。
なんだか梨木さんらしくないような気がしてきた。
くららさんに料理は教わっているものの、小説の中の最初の珊瑚のイメージからは食の仕事ができるほどの料理の腕前が期待できない感じがしたから、ずっと違和感も感じながら読み進める。
体に優しい、惣菜カフェ『雪と珊瑚』は好評を得て、駅ビルに出店の話も出る。
ああ、まさしくサクセスストーリー?!

と思っていたら、後半はちょっと違ったイメージのお話になってくる。
少し重くなってくる。
そこが梨木さんなのだろうな・・・。

それにしても雪ちゃんがすごくカワイイ。
やっと「マンマ」が言えるようになったばかりの雪ちゃんの次に発する言葉もいい→『ごあん、おいちいねぇ』『ああ、ちゃーちねぇ』
何よりも「雪」という名前がいい。(我が家のと同じ字だ)
唐津のり子さんの装画もすてきだ。さりげなく描かれているのはフェンネルだろうか。
本の見返しの淡いブルーもよくて装幀も気に入りました。
バードウォッチャーの梨木さんらしく「小鳥が鳴いていた」ではなく、ちゃんと「ジョウビタキがヒッヒッと・・・」と描写してくれるのも好ましかった。

ああ、そうだ。そろそろモズの高鳴き、そしてジョウビタキのヒッヒッも聴こえてくる季節です。

ウチの『雪と珊瑚』