こびとく日誌

クツをつくりながら考えたこと。晴耕雨読な日々のこと。

蜩の記


『蜩ノ記』を一気読み。一冊の本を一日で読み切ったのは久しぶりのこと。
時代小説を読むことは少ないです。日本史はあまり得意ではありません。なぜなら藤原ナントカとか、源のナントカとか名字が同じで名が似てる人たちがいっぱい出て来るし、途中で名前変わったりするし、養子になったり、人間関係が複雑で混乱してしまうから。
この小説でも最初の方では何度もページを遡り、この人誰だっけ?と確認しながら読んでました。でも途中からは人物のキャラクターと名前が一致し物語に没頭。
(学校の歴史の授業でも、歴史上の人物の人となり、物語をもっと教えてくれてれば頭に入っただろうになぁ・・・)

城内で刃傷沙汰に及んだ壇野庄三郎は切腹のところを免罪され、代わりに向山村に幽閉中の戸田秋谷の監視役に遣わされる。秋谷は7年前に前藩主の側室と不義密通を犯した廉で10年後の切腹を命じられていた。命の期限はあと3年。その三年間の庄三郎と秋谷とその家族とのふれあいの日々・・・。

7年前の事件の真相を探るミステリーの要素もあり、ちょっぴり恋もあり。
などと書くと軽々しくなってしまいますが、そんな軽くはなく、とても良い小説でした。
武士道とはこういうことを言うのだなぁ・・と感心しきり。
サムライってまさしくこれだ。
全ての男子に読んで欲しい一冊です。

好きなシーンはたくさんありましたが、とりわけ良かった一節を抜粋。
問題の前藩主側室お由の方、事件のあと尼になった松吟尼が明かり障子を開けて遠くの山を眺めながら秋谷の娘、薫に言ったことば。
『あのように美しい景色を目にいたしますと、自らと縁のあるひともこの景色を眺めているのではないか、と思うだけで心がなごむものです。生きていく支えとは、そのようなものだと思うております・・』

熱狂したドラマ「JIN」の咲さんや野風さんを思い出しました。

最後に『未練』というものを残すということがどういうことか、ということもこの小説は教えてくれました。
『蜩の記』というタイトルも素敵でした。
本の見返しに布目の紙が使われていて、ああ、こういうタイプの本を手にしたのも久しぶりだったなぁと思いました。