こびとく日誌

クツをつくりながら考えたこと。晴耕雨読な日々のこと。

ペンキや

梨木香歩さんの『ペンキや』を読む。大人のための絵本といった感じのこの本、思いの外良かった。

塗装店で見習いとして働くしんや。ペンキ塗りという仕事は見た目よりずっとむずかしい。神経質になって時間がかかりすぎてはだめだし、大胆にやりすぎて雑になってもだめ。色だって原色を混ぜ合わせてお客の注文の色をつくりださなければならない。これがけっこうむずかしい。何度塗り直してもお客の気に入るようにできない。
親方は「たとえばブルーグレイとひとことでいったってそう呼べる色合いは数限りなくある。お客様が本当に好きな色をかんじとるのさ」というけど、それがしんやにはとてもむずかしい。
その後しんやはフランスに渡り修行、ちょっと不思議なことにも遭遇し、帰国する。独立し塗装店を開業。最初のお客はゆりさんという女性。部屋の壁の色はどんな色がよいかとしんやがたずねると「まっしろなんかどうでしょう」と答えた。そのときのゆりさんは不安そうに見えた。そして夢の中にでてきたゆりさんは「元気が必要なの」と言っていた。そこでしんやは薄いクリーム色に似たレモンイエローで部屋を塗る。完成した部屋を見たゆりさんは自分が言った色と違うと一瞬がっかりした表情をみせるがやがて「思っていた色と違うけれど思っていたのよりずっといい色」と言ってくれる・・・。
その後もしんやの仕事は最初はお客さんが「言っていたのと違う」となるがあとからは「これで良かったわ」と言ってもらえるようになる。もちろん、なかには注文と違うと怒ったり、代金を払わないお客もいたけれど。

しんやしんやの父親も「ふせいしゅつのペンキや」なのだ。
ふせいしゅつとはこの世では他に見られないだろうと思われるぐらいすばらしいということ。

職人さんが出てくるお話は昔から大好き。心が揺さぶられる。
お客さんから注文を受け、そこに自分なりのエッセンスを振りかけ、気に入ってもらえるようなものをつくり出す。
言われた通りに忠実にこなすのが仕事だけど、でもそのもう一歩上をできたらいいなぁと思う。
それができたら「不世出の」と称号がつくんですね。
そんなにすばらしい称号はなくてもいいけど、でも、何か光るものを差し出したいのです。

ちょっと悩み中・・・