こびとく日誌

クツをつくりながら考えたこと。晴耕雨読な日々のこと。

底付け

つり込んで
すくって、被せて、ダシ縫って
コテ仕上げ
この一連の作業を底付けと呼びます



先週の金曜日にわたしの靴つくりの師匠がお亡くなりになった。
入院からわずか4ヶ月で逝ってしまわれた。

底付けの技術を伝授してもらいたくて94年の2月から9年の長きに渡って週3日ほど通い詰めた。
弟子入りといっても、下仕事をさせられるようなことはなく、ただ隣りに座って自分の仕事をするだけだった。
時折り、手をとめた時に「どれ」と言って、わたしのクツにアドバイスをくださった。
自分たちの修業時代は「同じことを二度きいたら殴られた」と話しておられたのできいてはいけない気がして、隣りで作業する師匠のたてる音に耳を澄まし、その音から作業のリズムを学んだ。
トイレにたった隙に、こっそり手を伸ばし、師匠の漉いた月型の厚みを探ったりもした。(そんなことしなくても触っていいですか?ときけばいつでも触らせくれたが)

午後1時から午後7時まで。間におさんじを挟んでの作業。いつもいつも同じタイムテーブルで過ごした。"同じ手"であり続けること、それが職人として一番大事なことなのかなと思った。
覚えが悪く、不器用なわたし。いつか「もう来るな」と言われるのではないかと思っていたが、そういうことはなく好きなだけ通わせてもらった。
そして靴つくりは体に刻まれた。

訃報をきいたあと、土日は底付け作業をしていた。
つり込んで、すくって、被せて、ダシ縫って、コテ仕上げ。
全ての作業の中に師匠の姿があった。何度も自分のてのひらをみつめてしまった。
この手の中にその人はいる、と感じた。
コバを磨いているときのあの一心不乱の様子。それがわたしにも。
ちょっと猫背で叩く姿。それもそっくりそのまま。ずっと真似をしていたのだから当たり前なのかもしれないけど・・。
何度も涙で視界が滲んだ。何度も何度も何度も。まだしばらくはそんな状態。

ききたいことはまだまだいっぱいあった。
チャンの煮方のコツや、ふのりの煮方。ときどき使っていたあの茶のインクは何だったのだろう?
金茶って実のところなんですか?
最後に塗っていた透明な液体の正体は・・・?

「厳しかったでしょう・・」とよく言われるが優しい師匠だった。「俺は女と犬には優しいんだ」とおっしゃっていた言葉通りに。


最初に譲っていただいたハンマー
柄は指の形にへこんできています
この先も使い続けます。ずっと。

心よりご冥福をお祈りします。



ブログをお休みすると何かあったのかなとみんなが心配するとは思っていたのですが、悲しみでいっぱいの記事にはしたくなかった。だから少し時間が必要でした。
ご心配かけてごめんなさい。わたしは大丈夫、元気です。